傷あと(瘢痕・ケロイド)について
傷の大小に関わらず、どのような傷であっても『傷あと』が残ることがあります。傷あとは目立たなければ差し障り無いのですが、一定の深さを越えた損傷の場合は、痕を残して治癒します。この場合を瘢痕といい、傷あとが引きつれておもうように関節などを動かせなくなる状態を瘢痕拘縮と呼びます。これは一般的にひきつれと呼ばれます。治療ではひきつれを伸ばすために植皮や皮弁形成など外科治療が有効です。
また、傷が治癒する過程で傷を埋める組織が過剰に増殖し、しこりやミミズ腫れのようになったものを肥厚性瘢痕、さらにもともとの傷あとがわからないようにまで広がったものをケロイドと言います。一般に、組織の増殖が一時的で、傷の範囲内に限られるタイプを肥厚性瘢痕、ゆっくり傷の範囲を超えて周囲へと拡大するタイプをケロイドと呼びます。
このような疾患の治療法には、外科療法をはじめ、ステロイド剤などによる薬物療法、および局所を圧迫する圧迫療法などがあります。当院では診察の結果、患者様に適切と思われる治療法を行います。
かゆみや痛みを伴う傷あとが気になった時には形成外科を受診しましょう。
発症しやすい部位や原因
下顎部 | ニキビやケガ |
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耳たぶ | ケガやピアスの感染 |
肩~上腕 | ニキビやBCG予防接種 |
胸部 | ニキビや心臓外科、呼吸器外科の手術後 |
下腹部 | 帝王切開の手術後 |
関節部 | ケガや整形外科の手術後 |
瘢痕、ケロイドの治療
傷あとが正常な過程で修復されないと、肥厚性瘢痕やケロイドといった状態になります。両者とも皮膚が線維増殖性疾患を起こした状態です。
肥厚性瘢痕は、炎症や外傷による受傷部位が治癒する際、受傷部位がその範囲内で赤褐色に隆起し、硬い腫瘤になった状態です。一方ケロイドは、肥厚性瘢痕と同様の腫瘤が、赤みを帯びながら受傷部位の範囲を超えて周囲の正常組織にまで浸潤し進行していく状態になります。
傷あとが正常に治癒するか、肥厚性瘢痕やケロイドになるかは、個々の体質や、同じ人でも身体部位や傷口の状況によって変わります。これらの発生要因はさまざま考えられていますが、主なものとして遺伝的素因や年齢(若年者ほど肥厚性瘢痕・ケロイド化の発症率が高い)、皮膚の色調(黒色人種はケロイド化の発症率が高い)、アレルギー体質の有無などが挙げられます。
このような内的要因のほかに外的要因としては、細菌感染(感染を起こと肥厚性瘢痕・ケロイド化の発症率が高い)、傷口にかかる力学的張力(力学的張力が大きいほど肥厚性瘢痕・ケロイド化の発症率が高い)や身体部位(日常生活で頻繁に動かすことで皮膚に緊張がかかりやすい部位ほど肥厚性瘢痕・ケロイドの発症率が高い)などが挙げられます。
内服薬
肥厚性瘢痕やケロイドの内服薬としては、トラニラストという薬の有用性が報告されています。ただ、トラニラストは掻痒感や疼痛などの症状を緩和させる作用があるだけで、肥厚性瘢痕やケロイドの退縮の効果はないため、他の治療法と併用する形で処方されることが多いです。
外用薬
肥厚性瘢痕やケロイドの外用薬としては、副腎皮質ホルモン剤の軟膏やテープが主に用いられます。ただし、このテープ剤を正常皮膚に貼付すると、皮膚の菲薄化を引き起こす可能性があるため、患部のみに使用するよう注意しましょう。
ステロイドの局所注射
局所注射による治療には、トリアムシノロンというステロイドが使用されます。単独でも治療効果は高い上、手術の補助療法としても使用されることがあります。月に1回程度の割合で治療を行い、改善が認められるまで継続します。ただし、硬化した組織に注入するため、注射の際に強い痛みを伴うことあります。問題点としては、過度に注入すると、周囲の正常な皮膚や脂肪組織を萎縮させてしまう恐れがあることや、ニキビの悪化、月経周期の乱れを引き起こす可能性もあります。
手術療法
手術により肥厚性瘢痕やケロイドを切除する方法です。ただし、単純に切除するだけでは、再発する可能性があります。肥厚性瘢痕・ケロイドの根本的な原因が、創部にかかる力学的張力であることから、完治させるには傷によって欠損した皮膚を近接皮膚でカバーする皮弁移植や植皮術を行う必要があります。また、関節部位などの日常生活で頻繁に動く部位は皮膚に緊張がかかりやすいため、皮膚を入れ替えることで突っ張りを抑制する必要があります。ケロイドに比べて肥厚性瘢痕は再発のリスクが比較的少ないため、テーピングや圧迫療法などの一般的な後療法で十分なことが多いですが、ケロイドの場合は再発率が高いため、ステロイドの局所注射や放射線照射などと併用し、できるだけ再発を防ぎます。